2014.06.30 PULL + PUSH PRODUCTS.を京都に訪ねて

TOP > うらトランク > PULL + PUSH PRODUCTS.を京都に訪ねて

 春先のまだ厚手のコートが必要な頃、京都・太秦の住宅地にある小さなアトリエに、PULL + PUSH PRODUCTS.のお二人を訪ねました。PULL + PUSH PRODUCTS.は2002年に設立されたクラフトブランド。主宰の佐藤延弘さんがデザインから制作までを手掛け、パートナーの小松左苗さんがそれをしっかりと支えています。

PULL + PUSH PRODUCTS.の佐藤延弘さん(左)と小松左苗さん(右)

古い家屋に手を入れたアトリエはふんわりとして丁寧な二人の空気で包まれていました

 PULL + PUSH PRODUCTS.とのTRUNKの出会いは、TRUNKがお手伝いをした昨年のMAISON & OBJET 9月展 JETRO J STYLE+の準備期間。世界市場で通用するデザインが優れた商品を探していた時に、ネット上で”PE”という何とも摩訶不思議な素材が使われた発色の素晴らしいポーチを見たのが最初でした。

(以下、ネットではじめて商品を見ていた時の私の頭の中)

『カードケース、ポーチ、バッグ・・・サイズもたくさん作っているんだ(いいな・・・)。

グリーン、パーブル、ブルー、ピンク、ゴールド・・・全部で18色のカラーバリエーション(すごくいいな・・)。

形はシンプルだけど、ファスナーとか細部まですごく凝っていてファッショナブル(ステキ、欲しい!)。

ゴミ袋と同じ素材を使用(えっ!??)。

ペラペラのシートを何枚もアイロンで圧着して素材にしている(!???)。

全行程手作り(!!!!!)』

 感動と興奮のあまり、その日のうちにPULL + PUSH PRODUCTS.へメールを出し、いろいろな手続きを整えて、無事MAISON & OBJET 9月展 JETRO J STYLE+に参加していただきました。

(佐藤さんと小松さんの初メゾンにおける汗と涙の成果は…レポート後半で)

PE製品はPULL + PUSH PRODUCTS.によって一つずつデザインされ手作業で作られています。ポリエチレンシートを使用

 ”PE”は、ゴミ袋などに使用されているLow Density Polyethylene(低密度ポリエチレン/LDPEまたはPE-LD)を素材にしたプロダクトシリーズ 。ぺらぺらのポリエチレンシートを何枚も重ねてアイロンで圧着して素材にするところから、プロダクトとして完成するまでの工程が全て佐藤さんの手作りという“驚異”の製品です。

詳しい工程はこちらからどうぞ

インタビュー

 主宰の佐藤さんは、デザイナーでクラフトマン。前々から、タダ者じゃないなぁと思っていましたが、今回のアトリエ訪問で更にその思いが深まりました。

 佐藤さんは1977年生まれ。大学卒業後の3年間は造形の会社に勤務し、遊具などをFRPで作るための図面をひいていたそうです。2002年の独立後、最初に興味を持った素材はモルタル。“MORTAR”というプロダクトシリーズを作って販売していく中で、「これが売れなくなったらゴハンが食べられなくなる!」と思って、”PE”シリーズの開発研究に着手したそうです。

 “PE“最初の開発

佐藤: まず白のレジ袋から実験をスタートしました。はじめは、分子構造のことなども何も知らなかったので「レジ袋を溶かしても溶けへんなー」という感じでした。レジ袋は高密度ポリエチレンなので、熱を加えても溶けるというよりは縮むくらい。だから最初に作ったものはぱりぱりしたものになってしまって形が作るのも難しかったんです。そこで低密度ポリエチレンで実験をはじめたのですが、こちらは溶解温度が低いので絵の具のようにグニャーとなり、形が作りやすい。「これだ」と思い使い始めましたが、その頃はまだまだ実験初期だったので低密度と高密度のポリエチレンを混ぜて作ったりもしていました。

最初は成型もポーチなら当然縫って作るのだろうと単純な発想で、ミシンで縫ったりもしましたが、当時から工法として縫うことへの違和感がありました。

 

小松: この頃はテープを混ぜてみたり、また違う素材と合わせたりもしていました。

 

佐藤: マチをつけた形にしたいと思って立体成型を試みてみたり。そうやっていろいろなものを作って失敗していく中で、低密度ポリエチレンのシートを何枚も重ねて素材を作り、熱を加えることで成型をするという現在の工法が確立していきました。

”PE”シリーズの初期に作られた袋物

 作品から製品へ

佐藤: はじめは少しアートよりの方向にいこうと思っていました。「ゴミだと思って拾ったらポーチになっている」みたいな。でもある時からプロダクトにしようと思い、作り方や形状も量産できるように進化させていきました。

現行シリーズで最初に作ったのは名刺用のカードケースです。単純に折り曲げてサイドをくっつけただけの形状だったのですが、生地の厚みを上手くコントロールできなくてカチカチのものでした。今でこそ何枚重ねるのが丁度良いという判断ができますが、最初の頃は板みたいな固いものしか作れなかったんです。だから何とか作った生地を折って端を溶かすという感じでした。開発をはじめて3年目でやっと商品としての原型ができたのですが、現在もまだ改良を加えています。

 

 

初期から現在まで佐藤さんの手作業で作られる”PE”シリーズ。素材だけでなくファスナーにも歴史アリ。現在のシリーズは現代的な素材感と洗練されたデザインのため、なかなかハンドクラフトに見られないのが悩みだそう。

 新商品と新しい素材

トランク: カードケースから始まった”PE”も現在では、ポーチやバッグなどバリエーションのある展開になっているのですね。最近も何か新しい試みはされましたか?

 

小松: バリエーションにPCカバーが加わりました。

発泡ポリエチレン(EPE)のPCカバー

佐藤: このPCカバーには、発泡ポリエチレン(EPE)というスポンジを使用しています。発泡ポリエチレンはブロックで発泡させ、それを必要な厚さでスライスして使用するものなのですが、その一番上のボコボコとしている普通なら捨ててしまう部分を買ってきて、他のPEシリーズと同様に熱でくっつけて作っています。まだ技術が追いついていなくて試作の段階です。発泡ポリエチレンという素材は、発泡倍率が高くなると密度が低くなって柔らかくなり、倍率を下げると密度が高くなって硬く感じるようになります。また溶かすとさらに発泡してむくむくと膨らむのですが、そこぎゅっと圧縮させてくっつけています。発泡ポリエチレンは、まだまだ自分の中で課題が沢山ある素材です。

 

佐藤: もう一つ、発泡ポリエチレンに低密度のポリエチレンを重ねたPCカバーもあります。発泡ポリエチレン自体が2mmのシートなのですが、その上に低密度ポリエチレン薄く重ねているという感じです。また表情が違いますね。実はこの発泡ポリエチレンの面白いのは、仕入れの方法にもあるんです。いわゆる端材なので、その時に業者さんで作っている色しか手に入らないのです。つまり食パンの耳だけを注文しているのと同じなので、たとえば「緑」を注文しても、業者さんに「今ないよ」と言われることもあります。

発泡ポリエチレンの上に低密度ポリエチレンを重ねたPCカバー

 コンセプトとしてのハンドクラフト

佐藤: 今の”PE”の在り方を突き詰めると最終的には「機械でやればいいのでは?」ということになると思います。もちろんその方向に頭を切り替えることもできますが、ハンドクラフトでできるギリギリのところを攻めることをコンセプトにしています。量産品を機械で作ろうと思えばプレス機を使ってできるのですが、やりたくないし専用の機械も持ちたくありません。自分の中には、明確なクラフト像があるのですが、それは家でおじいちゃんやお母さんがアイロンで作っているというものなんです。

 

トランク: これまでの成功のビジョンは、大量に生産して世の中に大量に流通させるというものだったと思いますが、それだと製品の背景としてのストーリー性が薄くなってしまいますね。今の人たちはストーリー性がより豊かなものを選ぶ傾向になると思うので、”PE”の在り方は時代にとても合っていると思います。

 

佐藤: また、機械化、量産化をしてしまうといろいろな人が絡んできます。材料を作る設備や組み立て設備を専用で作ったりしてしまうと、仮に商品がなくなった時にそれらの設備はどうするのだろうとか、また技術をその為に学んだ人はどうなってしまうのだろうとかのことを考えると、一人で納められる範囲でハンドクラフトとして作っていこうと思います。

左: アトリエにある工具

右: ミ袋の薄さの低密度ポリエチレンのシートを重ねて”PE”の素材にするためのアイロン。いろいろな種類があります

 ものの形とコンセプトの伝え方

佐藤: 最近はものの形についても良く考えます。ごく普通のシンプルな形がずっと好きで、そういうラインを”PE”でも揃えてきましたが、シンプルすぎてもコンセプトやストーリーの部分が、他の人たちに意外と伝わりづらかったりするのではと思うようになってきたんです。自分の中では、商品が展示台に置いてあって手にとってみてはじめて分かる微妙な違いが好きなのですが、そこを作り手が大事にし過ぎていると、商品を扱ってくれるお店の人は売りにくいかもしれないし、使う人もストーリーが読み取れにくいのかなと。

 

小松: 私たちが商品を置いてくれるお店の人とやり取りする時は、きちんと説明することができるのですが、店頭に並んだ時は商品の説明は難しいですよね。そこをもっと上手く伝えられれば、お客様にもっと持ち帰ってもらえるのかなとも思います。でも量産品に見えると言えば見えてしまうので、そのラインが実際難しいところです。

 

佐藤: 今のシリーズには、「四角くてスライダーがついているからポーチだな」という量産品のイメージをわざと取り入れているのですが、そこが本当に背景をイメージしやすいのかというと疑問を持ち始めています。また、初期のアートぽいものの方が面白いと言う人もいるので、現状のものがもしかするとプロダクトとして完成し過ぎているのかもしれません。

一緒にアトリエにお邪魔した中條永味子さんと加藤ゆみさん。お二人は日本とオランダをつなぐアーティストインレジデンスDeshima Airのプロジェクトチームで活躍中。アムステルダム在住の永味子さんと京都在住のゆみさんは、他にもいろいろとおもしろい活動をしているのでまた別のウラトラで紹介しますネ!

http://japan-holland-exchange.org/deshima/

 メゾン・エ・オブジェ9月展

トランク: 昨年9月にジェトロブースでメゾン・エ・オブジェ(インテリア&デザインの国際見本市)へ出展されましたが、海外の見本市での反応はいかがでしたか?

 

佐藤: ギリギリまでお話があっても、なかなかオーダーまでいかないというのがいくつかありました。納期と値段がネックになってしまったようです。

 

小松: ただその時に会場に来ていたポール・スミスのバイヤーの方から、お正月にオーダーを受けました。条件としての納期は本当に厳しかったのですが、何とか10日間で作って納品しました。実は先方からオーダーが入ったとき、私は実家にいてすっかりお正月気分で過ごしていたんです。でもそこからずっとそわそわしてしまって。1月末からロンドンのPaul Smith No.9 Albemarle Streetに置いてあります

 ショップ&ギャラリーcomadoについて

トランク: 自社のショップ&ギャラリーについて教えてください。

 

佐藤: お店と行っても小さいのですが、龍安寺前の商店街にあります。あまり人が来るところではないのですが、できる限り週4日開けるようにしています。そこで”PE”も含めたPULL + PUSH PRODUCTS.の商品と、他の方のものを販売しています。

 

トランク: 反応がダイレクトに分かるからいいですね。お店にいらっしゃる方はどういう方が多いのですか?みなさんお店を目指して来てくだるのですか?

 

小松: 割合でいうと観光客の方が多いです。それも外国の方。お店がお目当てで来てくださるのは2、3割りでしょうか。市内は市内なのですが、はずれなので来るのは大変だとおもいます。でも中にはかなり遠方から来てくださる方もいて、そういう時はすごく嬉しいです。

PULL + PUSH PRODUCTS.のショップ&ギャラリーがある京都・龍安寺の商店街通り。小さなかわいい嵐電に乗って龍安寺駅まで。駅からお寺に行く途中にある商店街は、なんだか懐かしくていい感じ

ショップ&ギャラリーcomado。

この場所で新製品発表会や実験的な展示も行うそう

http://comado.jp

 センスの良い化学者から生まれるプロダクトに今後も期待

トランク: 近々で今後の展開を教えてください。

 

佐藤: 色々あるのですが、今は、一度“MORTAR”シリーズに戻ってコンセプトを変更した薄いモルタルを作りたいと考えています。また質感だけを残したモルタルもシリーズ展開したいと考えています。実は今、興味のある素材があるのですが、まだ内緒です。ここ1、2年で調べ方が分かってきたので、調べることがすごく楽しいです。面白すぎて化学の調査や実験の仕方を正確に知る為に大学院に入り直してもいいなと思っているくらいです。どんどん今までは感覚的に良いなと思っていたことをもっと調べていきたいですね。

 

トランク: お話を聞いていると、佐藤さんはデザイナー兼クラフトマンで、かつ開発者ですが、何よりセンスの良い化学者ともいえますね!

今後もお二人の活躍に注目しています。今日は本当にありがとうございました。

ずらりと並んだ”PE”シリーズの色が本当にキレイ!PULL + PUSH PRODUCTS.のプロダクトシリーズ以外にもお友達の作家さんのものも紹介しています。2011年にオープンしたお店もアトリエと同じように二人でコツコツ作ったそうです

黄色のかわいいキャッシュトレーも”PE”

佐藤さんが最初にお熱を上げた素材、モルタル。PULL + PUSH PRODUCTS.ブランドからは“MORTAR”シリーズとしていろいろなアイテムが発表されています。アトリエへと続く扉の把手も佐藤さんの手作り。直線とラフな素材がマッス感を引き立てていて絶妙な存在感です

▶ うらトランク 一覧に戻る

Copyright © 2016 TRUNK LTD. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.